稲荷塾の考え方の変遷について

「頭のいい子には中学受験をさせるな」を書いた2013年ごろは、算数、中学数学、高校数学の量とそれにかける時間のバランスの悪さのみに注目していました。

すなわち、量は 1:2:10 ぐらいの比で、それを学ぶ時間の比は 2:1:1 で、これはおかしいじゃないかと。

特に中学数学を学ぶのに中学の3年間をかけてしまうと、その5倍の量の高校数学を同じ3年間で学ぶことになり、忙しい高校生活になってしまうと主張していました。

 

この見方は大筋で正しいと思いますが、今は別の方法もあると考えています。

そのように考えるようになったきっかけは二つあります。

 

一つは、言うまでもなく反転授業を見つけたことです。

通常授業は新しい概念を説明するために「講師が板書し、それを生徒がノートに写す」という作業が必要ですが、この作業の時間が授業時間の約半分を占めており、非常に無駄が多いのです。この無駄を省くにはIT技術を使うなどいろんな方法が考えられますが、いずれにしても講師側に準備のための多大な負担をかけ、いずれの場合もあまり現実的とは言えません。

しかし稲荷塾の場合は、私が授業で話してきたことを整理してまとめた本「稲荷の独習数学」があったので、容易にこのハードルを越えることができました。

この反転授業により、授業効果を劇的に飛躍させることができるようになったので、学ぶ量とそれにかける時間のバランスが多少悪くても、それが大きな問題にはならなくなったということです。

 

もう一つは、2013年以降、北野の生徒がぽつぽつと来るようになり、彼らを通して「モチベーションの高さが困難な状況を変える原動力になりうる」ことを知りました。

これは中学受験をした生徒とは決定的に違う特徴です。

中学受験をした中1生は大学受験を身近には感じていません。そしてその多くは遊びたい気持ちを押さえて勉強してきたのです。当然ながら、中学生になって初めて経験するクラブ活動等の楽しいことに心奪われます。さらに、中学受験では何をどの程度勉強すべきかを塾が全部教えてくれましたが、中学生になってからはそれらをすべて自分で考えて、自己管理して実行しないといけなくなるのです。

ですから、中学受験のためにつぎ込んだようなエネルギーを中学生になってからも持続できる生徒はほとんどいません。勉強量も、そして勉強に対するモチベーションも必ず落ちます。

落ちながらも最低限を下回ることなく、高2の夏過ぎぐらいから再び上げることができる生徒は受かります。しかし、完全に落ちてしまって、落ちこぼれの苦しさを味わいつつ、プライドも傷つき、モチベーションも完全に失ってしまうような生徒もいます。

それに対して、北野の生徒は京大に行きたいから北野を目指し、受かったらそのままの勢いで頑張り続けるのです。

高1になった段階で数ⅠAを終えている中高一貫校の生徒とこれから数ⅠAを学び始める北野の生徒、この段階で数学の力を比較したら勝負にもなりません。しかし、この差は徐々に埋まり、高2の中ごろにはもうどちらが有利であるかは分からなくなります。

モチベーションが重要なのです。

 

そして特別クラスを始めることにしました。高校受験をした高1生を対象に高1の1年間で数ⅠA、数ⅡB、数Ⅲのすべてをやってしまうのです。

この企画は大成功だったと言えます。

高1の1年間は少ししんどいですが、その後2年間の演習期間を確保することができるメリットは計り知れません。