反転授業、これまでの経緯

稲荷塾の反転授業の効果や実際的なことを書く前に、これまでの経緯に触れておきます。

 

まず、通常授業には無駄が多い、すなわち講師が板書し、生徒がそれを写してからでないと説明が始められない、そしてこの板書とノートにとるという作業の時間が授業時間の半分ぐらいを占めていることに気付いたとき、とてもショックでした。

それまでの自分の授業に自信を持っていたからです。長年の経験により、生徒がつまずくところとどうすればそれが分かるようになるのかを俺はよく知っている、だから、一般に難しいとされていることを分かりやすく伝えることができる、と思っていたのです。

でも、はるかに大きな効果が出せる別の方法があると直観が訴えていました。

 

それで反転授業の実験を始めました。

初めの1年は土曜日の別枠を使ってごく少人数でやってみました。

まあ、正直言って失敗の連続でした。

最初の課題はどの程度の予習を課せばいいのかが分からないことでした。

テキスト2ページを進めるのに、それに対応する「稲荷の独習数学」の部分を読んできてもらうというところから始めましたが、しばらくしてこれでは甘過ぎることに気付きました。これだとほとんどすべてを一から説明し直さないといけない、つまりそれまでの授業とほとんど変わらないのに2倍も進むなんて到底無理だと思いました。

それで、テキスト2ページのうち1ページは解いてくることにしました。もちろん状況は改善されましたがやはり忙しい授業であることには変わりはありません。

そして遂にテキスト2ページ分の問題を解いてくることを予習とすることにしたのです。これで授業は機能するようになりました。

でも、テキストの問題を解いてくると言っても、生徒がそれを自力で解こうとどれだけ粘ったかは個人差が大きく、その差が大きければ大きいほど授業はしずらくなります。

まず、予習をしやすくするために結果だけが手書きで書かれた解答ではなく、しっかりとした解答を作ることが必要です。それは模範解答を示すことにもなります。

それとともに予習のレベルを測るために小テストのようなものを準備することも重要だと思いました。そうすれば授業自体もメニューが増えてメリハリをもたせることができます。

こうして稲荷塾の反転授業は成長していきました。

解答はその後、よく質問されることを中心にポイント事項を書き込み「解説化」しました。

小テストは基本事項を覚えてきているかどうかを確認する目的でスタートしましたが、「この程度まで理解して来てほしい」という講師側が願う基準を示すものに変化しました。要するにかなり難化しました。

そうして次第に小テスト前に行うポイント講義の時間は短くなっていきました。土曜日に実験的に始めたときは2時間の授業全部がポイント講義でしたが、それが1時間になり、50分になり、40分、30分、20分、そして今は10分です。ポイント講義を短くしたことによってできた時間は演習に使います。

演習もそれを効果的に行うためには工夫が必要です。

演習を授業時間内にするようになった当初は答え付きの問題を配って、質問に対応して回るという方式をとっていました。しかし、これだとなかなか質問が出ません。自分で解けなくても、答えを見て納得すれば分かったつもりになるのです。なんとか自力で解こうと粘ることも少なくなります。

問題数を適切にすること、本当に重要な問題で演習すること、これに加えて演習のやり方も重要です。問題用紙Aを渡して、できたと表明した生徒とやり取りをします。解答があっているかどうかだけではなく、解答の書き方や言葉の使い方もチェックします。そうして合格した生徒には模範解答を渡します。ここまでが授業の到達目標です。

さらに、これらをこなしてもなお余裕があるような生徒のために演習問題Bも準備しておきます。

実はこれらのシステムが完成したのはつい最近です。現在2020年度の下半期で、ここで使う問題は全部準備できましたが、数Ⅲの上半期用の演習問題Aはまだできていません。これを作ってしまえば、次にはチューターの青倉君にTEXで打ってもらいます。今は手書きの演習問題を使っているということです。

作った演習問題は使ってみて初めていいかどうかが分かります。もちろんある程度はこれでいいと思って作っているのですが、実際に使ってみないとレベルや量が本当に適切かどうかが分からないのです。ですから、授業ごとに手直しをして、それからTEXで打たれたものを使うときには必ずと言っていいほど誤植が出るので、それを修正して最終的な完成になるのです。

ということで、納得ができるものができるにはあと数年かかるだろうと考えています。