稲荷塾の反転授業

稲荷塾の反転授業は、数学の授業には無駄が多いことに気付いたところから始まりました。

一般の数学の授業では何かを伝えるために「板書」と「生徒がそれをノートに写す」という作業が必要です。そして、その作業の時間が授業時間の約半分を占めることもあるのです。

これはすごく大きな無駄です。

これに気付いた後、次に生じた疑問があります。

「最短でマスターする数学」は私が授業で板書し、説明した内容を整理した形で書かれていますが、これを読むのと、授業を聴くのとどちらが理解しやすいでしょうか?

直観的にはどちらも同じ効果があるように思われます。

授業を聴くことのメリットを考えると、熟練の講師においては、誰かが分かっていない、あるいは誰かの反応が悪いということを瞬時に感じ取り、その前提部分を復習したり、具体例を上げたり、場合によっては内容を掘り下げたりします。

しかし、これは同時にデメリットになることもあるのです。

つまり、分かっている生徒にとってはその補足が無駄であるかも知れないからです。

要するに、難しいと感じる部分は人により異なるのに、「分かりやすい授業」においては最大多数が理解できるようにしようと試みるがために多くの無駄が生じるのです。

結局、本に書いてあることがある程度飲み込めるという状況においては、参考書を読む方が授業を聴くより圧倒的に効率が良いのです。

ただ、疑問点が次々に出て来るようでは、参考書を読み進めることができません。

そこで、平日の15時から21時と土曜日の14時から21時は自習室を開放し、いつでも質問受けができる体制を作りました。同時にスラックを導入し、簡単な質問は、その箇所を写真に撮って送れば、上記以外の時間でもできるだけ素早く対応するようにしました。

こうして反転授業が始まりましたが、小テストにおいて「理解が甘くなりそうなところを突く」ということが重要であることが分かって来ました。自分の理解が不十分なところは、案外自分では気付きにくく、そこをびしびしと指摘するような小テストにしたことで授業効果が劇的に上がったということです。

これに関連して、大きな気付きがありました。

新しいことを学ぶことと、それを定着させ使えるようにすることを比べると、後者の方がずっと難しいのです。

多くの講師はこの点で誤解していて、どのように刺激的に伝えるかということに心血を注いでいます。

正直言って私もそうでした。

しかし、情熱を注ぐべきは、新しいことを伝えること以上に、それが生徒の中で定着して行くようにコーチすることです。

稲荷塾の反転授業においては、新しいことを家庭学習で学び、それを定着させるための演習を教室で行います。理解が甘くなっている部分に気付くこと、新しく学んだことを定着させること、こういったより難しい部分を教室ですることにより、より効率よく学べるようになったのです。

では、どの程度効率が上がったのでしょうか?

これは個人差があるので、明確に測るのが難しいところですが、優秀な生徒程、効率的に学べています。大雑把な比較をすると、1年で学ぶ内容を半年で学べるようになったので、2倍の効率になったと言うことはできると思います。

一昨年、灘から東大理Ⅰに受かったケンシロウなどは中1の後半の半年で数ⅠAから数ⅢCまで全部をやってしまったので、一般の6倍ぐらいのスピードでした。