稲荷塾の反転授業

「一般に行われている数学の授業には無駄が多い」という気付きから稲荷塾の反転授業は始まりました。

すなわち、新しい概念や技術を伝えるために講師が板書し、それを生徒がノートに写してから説明が始まりますが、この「講師が板書し、それを生徒がノートに写す」という作業の時間が授業時間の約半分を占めているのです。

これに気付いたときはショックでした。なぜなら、それまで自分の授業に少なからず自信を持っていたからです。しかし同時に、授業の効果を劇的に向上させる方法があるに違いないことを直感しました。

 

稲荷塾の反転授業は「稲荷の独習数学」で予習をするところから始まります。これは私が授業で話してきたことを整理し、まとめたものなので、これを読むと授業の説明を聴いたのと同じ効果があります。もちろん板書の時間もノートに写す時間も不要です。

非常に効率よくある程度の理解に到達し、授業ではそれを使いこなせるようにすることができると思いました。

しかし、意外にもここからの道のりが長かったです。

反転授業を始めた当初は、この「稲荷の独習数学」を読んで来ることが予習のすべてでした。しかしそれでは予習のレベルが低く、必然的に授業でのポイント講義の時間が長くなります。ポイント講義が長くなるとますます予習のレベルが下がります。しっかり分かっていなくてもどうせ説明してくれると生徒は思ってしまうのです。

しかし、「分かる」ということと「できる」ということは違います。

ここで、分かりやすい授業はダメだということを知りました。もちろん分かりにくい授業よりましですが、いくら分かりやすい授業をしても生徒は分かったつもりになるだけでできるようにはならないのです。彼らがつまずきそうなところを先回りしてつぶしていったとしても、実際につまずいたわけではない彼らの問題意識がそれを克服しようとしていない限り、一定以上の理解には到達しません。

とすると、生徒につまずかせる、つまり「分かったつもりになっていたけれど不十分だった」と気付かせる機会をたくさん作るということが重要になります。

そこで、まず予習にテキストの問題を解いて来るということを加えました。「稲荷の独習数学」はこのテキストを土台に書いたので、両者は完璧に連動していますが、「稲荷の独習数学」を読んで分かったと思えばそれに対応するテキストの問題を解くのです。そうすると、分かったはずのことなのにどうすればいいか分からないという問題に直面するのです。そういうことが起こるたびに参考書に戻って読み返すのです。これで予習のレベルはかなり上がりました。

授業におけるポイント講義の時間も徐々に短くなりました。

次に行ったのは小テストのレベルを上げることでした。最低限の予習をしているかどうかを確認するために行っていた小テストのレベルを上げ、こちらが望む予習のレベルを示すものとして小テストを使うようになったのです。当然のことながら「大体分かったつもりだったけれども甘かった」と生徒が感じるような問題にしようとしているということです。これにより上位層の意識が変わりました。「普通にやっていれば100点取れる」と思っていたのに、急に25点や0点を連発するようになったのです。小テストは4問でできているので、4問中1問取れるかどうかになってしまったということで、まじめな子ほどショックを受け、予習に対する真剣さが上がりました。

このようにして徐々に「授業の効果を劇的に上げる」という目標に近付いてきましたが、今年度は小テスト後に行う演習問題を整理することに取り組んできました。最初に演習問題をAとBに分け、Aでは重要事項の再確認とテキスト等では扱わなかったようなパターンの練習をすることにしました。これがこなせることが授業での到達目標です。しかし、小テストの直し以降は個別対応で授業を進めるので、中には時間内にこのA問題までを仕上げてしまう生徒が出てきます。そういう生徒のために応用問題Bを準備しました。基本的にこれは証明問題です。

小テストの直し以降は個別対応と書きましたが、これもすごくいいシステムだと感じています。というのは、言葉の使い方や解答の書き方等で、しっかりした答案を書ける生徒は滅多におらず、それに対するアドバイスができるからです。

結論として、授業の効果を劇的に上げることができたと思います。