稲荷塾の売り

私はD先生の数学力に憧れ、いつかはD先生と一緒に仕事をしたいと願っていました。

京大の数学、文理合わせて11問を1時間程度で模範解答を作ってしまう実力は驚異と言うしかありませんでしたから。

受験生は、理系が150分、文系が120分、合わせると4時間半で解く量を1時間ですから、人間業とは思えません。

ところが、私のもう1人の恩人である奥野さんが、私がD先生と組みたがっていることについて、すごく心配していました。

稲荷さんがD先生と組んだら、稲荷塾じゃなくなるで。稲荷さんがD先生のことをすごいと思っているのは分かるけど、稲荷さんもすごいで。保護者から見たらそんな違いは分からへんで。保護者は、数学ができるかどうかじゃなくて、ちゃんと見てくれるかどうかを気にしてるんやで。たとえば保護者が説明会で稲荷塾に来るとするやん。そこで思歩ちゃんのかわいい靴が置いてあるのを見るやん。その時点で稲荷さんの勝ちや。

これは思歩が4、5才ぐらいのときの話で、稲荷塾を我が家の1階でやっていたときのことです。確かに思歩の靴はかわいかったはずです。

それにしても、私がすごいという根拠が思歩の靴ではねぇ …

まあしかし、それから20年以上が過ぎて、奥野さんの言うことが正しかったのかなと感じます。

私はD先生のような数学力を身につけるのをあきらめ、その代わり「高校生が自分の力で京大の問題を解けるようになる方法」を探す方向にシフトしました。京大の問題を難しいと感じていたからこそできたことで、これが稲荷塾の売りになりました。

そして、この内容がこの3月に「突破力を鍛える 最難関の数学」という名前で出版されます。