AO入試の拡大について

最近、数Ⅲの演習用の問題が不足するようになり、2004年以降の京大の問題を解き直し、手ごろな問題を拾うという作業をしています。

そうすると、驚くようなことが2つありました。

一つは、問題を忘れているのです。

一応、京大の問題は30年分以上全部解いているはずですが、「あれっ、こんな問題、あったっけ?」ということがしばしば起こります。

だからこそ、新鮮な気持ちで解けるということもあり、悪くはありません。

ですが、…。

もう一つ驚いたのは、無茶苦茶簡単です。

それで思い出したのですが、京都大学医療短期大学部(医技短)の募集が2003年度までだったということです。

その後、医技短は京大の医学部保健学科として4年制になり、生まれ変わったのです。

そうすると、彼らを同じ入試問題で選抜することができないのです。もしそんなことをすれば、全員が零点になってしまい、入学試験の意味がなくなってしまいます。

京大は悩んだのでしょうねぇ …。

それでまず、入試問題を易しくしました。思い出すに、2004年の問題なら150分で解くべきところを私は40分で解き切ってしまい、あまりの簡単さにショックを受け、危機感を強く持ちました。

問題を易しくするというのは医技短の併合措置として最悪の方法です。

そんなことをすると、上位層(特に医学部医学科)はみんな満点を取ってしまい、やはり選抜試験の意味がなくなってしまいます。

それに問題が簡単だと、受験生が勉強しなくなるという傾向があります。

当時、依然として難しい問題の並んだテキストで授業をしていたら、何人かの生徒に「こんな難しい問題は出ないんじゃないですか?」と文句を言われたことがありました。正直言って歯痒かったです。そして情けなかったです。

京大もこれではいかん、と気付いたようです。2007年から2010年までは問題を分けました。医学部保健学科を受ける生徒は甲の問題、その他の生徒は乙の問題を解くことになったのです。

しかし、大学側からするとこれも手間の要る作業です。それに保健学科の生徒は複雑な気持ちになったに違いありません。

どこの学生かと問われて、「京大です、保健学科ですけど」のように答えるのは気持ちのいいものではなかったはずです。

そうしているうちに保健学科のレベルも次第に上がり、他の学部と大きな差がなくなってくるに伴い、2011年から入試問題も一本化されました。

ただ、その後は6問中3問ないし5問は標準的問題で残りは従来の京大レベルの問題という形式が定着したようです。ですから、こういうことが起こる2003年以前と比べるとかなり簡単になった感じはしますし、数学が苦手な者は、その標準問題だけをきっちり解き、他教科で点を稼いで合格しようとするのです。

 

このように見てくると、入試問題はすごく大事です。

それによってそこを目指す生徒の勉強の仕方が変わるのです。「従来の京大レベルの問題」には手を付けなくてもよいということになれば、受験生にかかる数学の負担は断然軽くなります。

そしてそれが大学のレベルに影響を与えるのです。

個人的には、「最低限、このレベルを越えないと京大には入れませんよ」という基準を示してほしいと思います。標準問題はいくら多くても2問以下にしてもらいたい!

 

同じことで、AO入試の枠を拡大しようとしていることにも疑問を感じます。

東大・京大の学部生の学力がアメリカのトップ大学の学部生の学力レベルより高いということはあまり知られていません。大学ランキングで日本は下の方だということは有名ですが。

では、なぜ東大生や京大生の学力が高いのでしょう?

それは入試問題のレベルが高いからです。

それを突破しようとして受験生が勉強するので、高くなるのです。

もちろん現行の入試制度に問題がないわけではありません。

でも、「悪いところがある。だからそれをやめてAO入試だ」ってな発想はねぇ …。

 

もう少し露骨に書きたいのですが、先日「アクティブラーニング」について、それがダメであることをストレートに書き過ぎて消去に追いやられた経緯があるので、この辺で止めておきたいと思います。

 

PS アイキャッチの写真は旧医技短の校舎です。確か、医学部の隣にあったと思います。